とんび

 先日、実家の奥多摩に帰り、居間の掃き出し窓から濡れ縁へ出ると、おふくろの年季の入ったサンダルが目に入った。なにげにサンダルに足を滑り込ませ、しばらく濡れ縁に座って外をながめていた。とても天気の良い日であった。すぐ下の多摩川から昇ってくる心地よい風に包まれて、花木が穏やかにそよいでいた。

 以前いただいた皇帝ダリアの幹が庭の中心で存在感を示している。くちなし7年ぐらい前に、一青窈のコンサートでもらって地植えにしたくちなしが、今年も香りを楽しませてくれている。家の周りをあらためて見渡すと、周囲に民家はいくつかあるが、右をみても左をみても山、山、たまに川、そしてまた山である。町の人口は6000人弱の過疎の限界集落といったところである。

 しばらくすると、「ピーヒョロロロロ・・・・」と聞き慣れた鳴き声が耳に入ってくる。北側の山の尾根づたいにとんびが姿を表す。ゆっくりと羽を動かしながら気持ち良さそうに大きな旋回を繰り返す。山のとんびそして私の上空を南側の川の谷間に向かい大きな8の字でも描くように優雅に飛んでいる。そして姿が見えなくなったかなと思うと家の裏手からまた姿を表す。しばらく視界の中で大きな旋回を繰り返す。気がつくと、それに合わせるように、見上げた自分の頭がゆっくりと旋回を繰り返している。リズムが合うと自分も飛んでいるような、ゆったりした気分になってくる。「ピーヒョロロロロ・・・・」癒しの音色が眠気を誘う。

 疲れていたのか、だんだんまぶたが重くなる。脳裏に夏の海の情景が浮かんでくる。舞磯浜奥まった静かな入り江である。打ち寄せる波の音が心地よく響いている。潮の香りになつかしさを感じている。砂浜に寝転んで、浜の裏手の森の木々を見上げている。「ピーヒョロロロロ・・・・」とんびが森の上空を気持ち良さそうに旋回している。ここは伊豆の舞磯浜だなぁとぼんやりわかる。そういえばしばらく来てなかったなぁと思っていると「まさし〜お茶が入ったよ」とおふくろが台所から居間に向かいながら声をかけてくる。はっと我に返り、目を覚ます。夢をみていたようである。

 まばたきを繰り返しながら、周りを見渡すともうとんびはいない。風が強くなり、少し肌寒くなってきたので、濡れ縁を後にして居間の中へ入る。

「今日もとんびが飛んでるねぇ」とおふくろに話しかける。「いつも気持ち良さそうに飛んでるよ」といいながら湯のみにお茶を入れてくれる。みたらし団子を食べながらお茶をすする。とんびの余韻を感じながら、再びまぶたが重くなる。