最近めっきり見かけなくなった、ツバメ印のマッチを手に取り、若干しけっているなと思いながら、まず一度擦ってみる。案の定一度では火がつかず、マッチ棒の頭が崩れかけた三度目で、何とか火がつく。

 線香差(せんこうさし)から線香を三本取り出し、マッチ棒に近づける。三本あるので、なかなか思い通りに火がつかない。手間取っていると、マッチの火が、導火線のように残り少なくなったマッチ棒から、右手の指先に向かってせまってくる。そのままの姿勢で両手の間隔を保ちながら、右側の燃えかす入れの上に移動する。「あちちちっ!」と小声でつぶやきながら、何とか着火、ほとんど燃え尽きてしまったマッチは、やけど寸前で燃えかす入れに落下する。

「ふ〜」一息いれ、左手の線香を右手で扇ぎながら、火を落ち着かせる。煙りが静かに立ち込める。香炉の灰に線香を立て、右手で静かにリンを鳴らす。右手の指先に、若干熱さを感じながら合掌。伸びのあるリンの音色が、心地よく耳の奥まで伝わり、余韻に気持ちが癒される。「何とか元気にやっております!」とりあえずご先祖様に報告。右肩越しに振り向きながら、「親父このリンの音色いいね〜」「そうか〜」と満足そうな笑顔がそこにある。

 実家に帰ったときにまず行なう儀礼である。

 日頃、先祖や両親に不精をしているせいか、線香の香りや、立ち込める煙り、またリンの音色に、心が救われるようである。
いや、救われたいというのが正しいのかもしれない。

 今年も夏を迎え、実家の奥多摩町のお盆は7月15日である。子供の頃は、きゅうりやナスの夏野菜に割り箸を刺し、精霊馬(しょうりょううま){先祖がこの世とあの世を行き来するための乗り物}をよく作ったものである。きゅうりは、足の速い馬に見立てられ、あの世から早く家に戻ってくるように。ナスは、歩みの遅い牛に見立てられ、この世からあの世に帰るのが少しでも遅くなるように。また、供物を牛に乗せて、あの世へ持ち帰ってもらうように。それぞれ願いが込められているそうである。

 今年は久しぶりに迎え火を焚かせてもらい、乗り心地の良い精霊馬を作ろうと思っている。