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ポーカーフェース

 昨年、何冊か読んだ本の中で、沢木耕太郎の「ポーカー・フェース」が一番面白かった。13編のエッセイ集であるが、話の展開が絶妙で、あっという間に引き込まれてしまう。有名作家や芸能人など登場人物とのエピソードも面白く、読み終わってから、もう少し読みたいと思わされてしまう。

 沢木耕太郎の本は今まで何冊か読んだことがあるが、いずれもノンフィクションであった。印象に残っているのは、1960年、池田勇人内閣の下で策定された所得倍増計画の舞台裏について書かれた「危機の宰相」、同年、社会党の浅沼委員長に対して行われた犯罪について書かれた「テロルの決算」、脳出血で入院した病床の実の父親を見守りながら、無数の記憶を掘り起こし、その無名の人生の軌跡を辿る「無名」。流星のように消え去った藤圭子の真実を描く「流星ひとつ」、この本は1979年、ホテルニューオータニのバーで行われたインタビューをもとに、逐語(実際に話した一語一語を忠実にたどって訳すこと)のみで構成されていることに驚かされる。

 相談援助のスキルアップに関する研修の中で、グループワークの内容を録音し、逐語録を作成したり、クライエントとの面談の内容を思い出しながら、逐語で書いてみる練習がある。逐語で書くことにより、自らの内省(自分の考えや行動などを深くかえりみる事)になる。また、言葉だけでなく、その背後に潜む真実を吟味するうえで大きなヒントとなる。
そういった意味で「流星ひとつ」はとても勉強になる本であった。

 一番印象に残っているのが、「凍」。最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史・妙子夫妻が2002年10月、ヒマラヤの難峰ギャチュンカンに挑み、雪氷と雪崩、悪天候、凍傷に見舞われ、絶望的状況下、奇跡の生還を遂げる。
 
ポーカーフェース 読んでいて寒気を感じるほど壮絶な内容であったが、引き込まれてしまった。昨年の夏、講習会に出掛けた日の朝、電車の中でずっと読んでいた。もう少しで読み終わるところで、駅のトイレに入った。トイレの中でも読んでいて夢中になり、気が付くと、講習会の時間が迫っていた。焦っていたので、ペーパーホルダーの上に本を置き忘れてしまった。すぐに気がついたが、引き返す時間がなかった。帰りにもう一度寄ってみたが、使用中であったため、断念した。その後、図書館で借りた事を思い出す。

 この山野井夫妻は奥多摩町に住んでいるらしく、何年か前に泰史氏がトレーニングの為に林道を走っていて、熊に襲われた事がニュースになった。その時のエピソードも「ポーカー・フェース」に書かれており、泰史氏の常人でない思考が垣間みれる。

「ポーカー・フェース」 新潮文庫 590円 お勧めです。