自分の尊敬する一人の人物について書きたいと思います。その人物はクリスト・ヤヴァシェフというブルガリア出身の芸術家です。クリストの作品の特徴は、梱包(こんぽう)することです。どういうことかというと、デパート で商品を買ったときに包んでくれるラッピングのことです。代表的な作品を紹介しましょう。

 「梱包された海岸(オーストラリア・リトル湾、高い崖に囲まれた海岸線の約2.4キロを梱包)」「梱包されたポン・ヌフ(パリの有名な橋)」「取り囲まれた島(フロリダ州・ビスケーヌ湾に浮かぶ11の島の周りをピンク色の合成繊維で取り囲んだ。)」「谷間のカーテン(コロラド州・ライフル、二つの山の中腹にカーテンレールを引き、オレンジ色のナイロンカーテンで谷間を覆った。)」「アンブレラ・日本とアメリカのためのジョイント・プロジェクト(茨城県・カリフォルニア州、茨城が青色、カリフォルニアが黄色の高さ6mの傘を合計3100本設置した)」「ライヒスタークの梱包(ドイツ・ベルリン、旧ドイツ帝国国会議事堂を梱包)」

 どうでしょう!対象があまりにもケタ違いだと思いませんか。この人はいったい何者なんだと思い、クリストについて知りたい欲求に駆られ、調べずにはいられませんでした。

 これらの作品は、期間が限定されており、数週間ですべて撤去されます。材料は全てリサイクル等にまわされ、手元に残ることはありません。この意味は、作品が誰の所有権も持たないということです。もちろんクリスト本人も所有することができません。とかく有名絵画などの芸術作品は、破格な価格がつきますよね。ピカソやゴッホの絵が何十億とかで話題になります。しかし、クリストの作品はそういう金持ちの投機の対象となるのを否定するものであり、作品の費用についても、自分のプロジェクトのデッサン等を売って都合するもので、アンブレラ・日本とアメリカのためのジョイント・プロジェクトは36億円の費用を要したそうですが、寄付金やスポンサーに頼ることはありません。

 ここで、クリストの存在を決定的なものにしたライヒスタークの梱包について書きたいと思います。でもその前に、作品の対象物をみて何かおかしいと思いません?海岸とか、島とか、橋とか、勝手にラッピングなんかしちゃったら怒られちゃいますよね。彼の作品は、何年にもわたる調査、研究、計画、法的手続き、地元自治体との話し合いなどを経てようやく実現します。その作品は観客のアクセス度や安全性といった条件を満たし、あらゆる法律・規制に違反せず、人々の日常生活やビジネスといった現実世界の営みを阻害することなく存在しうるものでなければならないとされています。ですから、作品の設置までに至る労力と時間は並大抵のものではありません。

 ライヒスタークの梱包は完成に至るまでに(1971〜1995)24年の歳月を必要としました。ライヒスターク(旧ドイツ帝国国会議事堂)は、19世紀末に完成し、ヒットラーの第三帝国に代表されるように、20世紀ドイツの激動の歴史のシンボルであり、また建物の真後ろにかってのベルリンの壁があり、東西分断、対立の象徴になっていたあまりにも複雑でデリケートな性格をもっている建物です。日本で言えば、皇居を梱包するようなものだということですから、デリケートさは半端じゃありません。クリストは1976年から1995年の間に、54回ドイツを訪れ、政治家・議員・一般国民・美術関係者との話し合い、説得を行い、ドイツ連邦議会議長に何度も申し入れをしますが、その都度拒否の決定を通告されます。そんなこんなで、1994年ドイツ連邦議会が、クリストのライヒスターク梱包プロジェクトを本会議で審議して、国会議員が記名投票することになりました。投票の結果、許可の決定が下されました。

 このプロジェクトの最も深い意味は、クリストがライヒスタークを梱包したいと言い出したために、ドイツの国会議員一人一人が、そしてドイツ国民一人一人が、果たして自分は、あの歴史の重い記憶を担っているライヒスタークをどう考えているのかということを改めて本格的に考え直し、その上に立って、梱包することに自分は賛成するのか反対するのかを決めなくてはならない事態に追い込まれたわけです。ドイツ人一人一人が、過去のドイツ、そしてその結果としてある今のドイツをどう考えているのか、あのナチスのやったことは今の自分にとってどういう意味をもっているのか、ということを真剣に考えなければならなくなったということです。もしクリストが、皇居を梱包したいと言い出したら、皆さんはどう思いますか?「そんなことできるわけないだろ!」と一括される方が多いと思いますが、賛否を問わず、真剣に考えさせられるんではないでしょうか。

 芸術とはとかく、作者の主観によるあくまでも個人的な才能によるものであり、それを観る側もその個人の好みで好き嫌いを判断するような物に思われがちです。

 このようなクリストの作品は、個人の主観的な枠を超えて、物事の本質に向かうものであり、その生き方は芸術の枠も超え、自分のやるべき事に向かった導線を光輝かせていく作業のように思います。同じ時代に生きる一人として、導線を探し続ける一人として、勇気を与えてくれたことに感謝します。

 あなたはどのような人になりたいですか?どのような人生を送りたいですか?それがはっきりしてるのなら  まず そのような人になる努力をしなさい そして そのような人生を実現しなさい 次に それが 真に望んだ ものだったかどうかをもう一度静かに考えなさい もしそうなら それで良し もし違ったなら 真実の道へと  歩く方向を変えなさい あなたの人生はあなたのもの あなたの望むようにしていいのです。
(2000年中央法規出版カレンダー11月〜12月より)

HERE WE GO positive spirit and enjoy life happiness

21世紀に向けて 自分へのメッセージ

 


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