4月の初め、尊敬するクリストという現代美術家の展覧会があり、六本木の東京ミッドタウン・ガーデンの中にある21-21 DESIGN SIGHT(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)というよくわからない名前の場所へ初めて出掛けた。六本木なんてもう久しぶりであり、たしか金魚という店のショーを見に行ったのが最後で、それも10年以上前のことなので、ほとんどおのぼりさんの心境で出掛けた。

 当日は休みの日という事もあり、敷地内の公園は桜に彩られ、家族連れやカップルで賑わっていた。受付を済まし、歩みを進めると、モニターに右の写真の映像が流れた。「ヴァレー・カーテン」(谷間のカーテン)コロラド州の二つの山の中腹に巨大なオレンジ色のナイロンカーテンをかけたプロジェクト(1970年-1972年)。オレンジ色の鮮明さと存在感がとても印象的であり、初めて写真で見たときは度肝を抜かれた。この色に魅せられて、有限会社イーライフのテーマカラーはオレンジ色にしている。

 クリスト・ヤヴァシェフ。1935年6月13日生まれ、ブルガリア出身の芸術家。現在75歳。妻はジャンヌ=クロード。クリストと同年・同月・同日生まれのフランス人。クリスト&ジャンヌ=クロードとして二人三脚で創作活動を続けてきた。彼らの作品の特徴は、梱包(こんぽう)すること。代表的な作品を紹介すると、左の写真の「囲まれた島々」フロリダ州・ビスケーヌ湾に浮かぶ11の島の周りをピンク色の合成繊維で取り囲んだプロジェクト(1980年-1983年)。右下の写真の「ポン・ヌフの梱包」セーヌ川にかかるパリ最古の橋を金色の布で梱包したプロジェクト(1975年-1985年)。左下の写真の「ライヒスタークの梱包」ドイツ・ベルリン、旧ドイツ帝国国会議事堂を梱包したプロジェクト(1971年-1995年)。

 これらの作品は、何年にもわたる調査、研究、計画、法的手続き、地元自治体との話し合いなどを経てようやく実現となる。あらゆる法律・規制に違反せず、人々の日常生活や現実世界の営みを阻害することなく存在しうるものでなければならない。作品は期間が限定されており、数週間ですべて撤去される。作品の費用についても、自分のプロジェクトのデッサン等を売って都合するもので、寄付金やスポンサーに頼ることはない。作品の設置までに至る労力と時間は並大抵のものではない。

 「ライヒスタークの梱包」では、ドイツ議会を巻きこむ長年の論争の末、やっと実現し、24年を要している。20世紀ドイツの激動の歴史のシンボルであり、複雑でデリケートな建物に対して、ドイツ国民が真剣に考えさせられたプロジェクトであった。

 作品全体を通して、現実世界を強調することにより、社会や歴史の本質について考えさせられる。

 残念ながら、ジャンヌ=クロードは2009年11月18日に脳卒中で急逝している。クリストは妻の死後もその意思を受けついで、精力的に活動を続けているという。

 人生の岐路に勇気を与えてくれた人物の足跡に触れることができた貴重な春の1日であった。