20世紀の落し物A

 2016年5月27日、オバマ米大統領が、現職の米国大統領として初めて被爆地、広島を訪れた。平和記念資料館を見学し、原爆慰霊碑に献花した。そして、17分間の演説をした。演説に先立ち訪れた資料館では、「平和を広め『核なき世界』を追求する勇気を持とう」と記帳した。

 2009年にノーベル平和賞を受賞した「核兵器のない平和で安全な世界の実現を目指す」と訴えたプラハ演説から7年、核兵器を巡る現実は、残念ながら良い方向へは進んでいない。来年1月末で2期8年の任期を終える米大統領の広島訪問には、賛否はあるが、自分の責務を全うしようとする真摯な姿勢が感じられた。

平和記念資料館資料演説の気になる部分を抜粋すると、原子核の分裂を可能にした科学の進歩と同様、道徳の進歩が求められている。だから我々はこの場所を訪れる。広島の真ん中に立ち、原爆が落とされた時に思いをはせる。目の前の光景に子どもたちが味わった恐怖を感じる。声なき悲鳴に耳を傾ける。あのひどい戦争やそれまでの戦争、そして未来の戦争の罪なき犠牲者全員に思いを寄せる。言葉だけではそのような苦しみに声を与えることはできない。歴史を真っすぐに見つめ、再び苦しみを生まないために何を変えなければいけないのかを問う責任がある。
 
 彼ら(被曝で亡くなられた方々)の魂は我々に内面を見つめ、我々が何者であるかを振り返り、これからどのようになっていくのかを考えるように語りかけてくる。“内面を見つめ”“何者であるかを振り返り”というところで、自分が広島を訪れた時の記憶が蘇る。

 2001年12月25日、初めて広島を訪れた。目的は原爆ドームをこの目で確かめることであった。残念ながら修復中であり、周りに足場が組んであった。近くで見ると、建物の痛みがかなりひどいことがわかった。その後、平和記念資料館へ向かった。館内は、充実した資料が豊富にあり、原爆のもたらした悲惨な世界がリアルな形で展示してあった。出口付近に平和へのメッセージを記入するノートがあり『20世紀の落とし物、もう二度と落としてはならない落とし物』と書いた。

平和の鐘資料館を出て、近くのベンチに腰掛けていると、鐘の音が聞こえてきた。警備員が歩いてきたので、「あの鐘はなんですか?」と聞いた。「平和の鐘ですよ、誰でも鳴らして良いんですよ」と教えてくれた。無性に鳴らしたくなり、急いで鐘の下へ向かった。鐘になんか文字が刻まれている。『自己を知れ』と刻まれていた。当時、職場を退職して、翌年からの開業準備をしていた。期待と不安が混沌としており、その文字を見て、自分自身の生き方について問われているように感じた。
 
 自分は、本当は何をすれば良いのだろうか?何をすべきなのだろうか? そんなことを思いながら、平和の鐘を力いっぱい鳴らした。あまりの鐘の音の大きさに、近くにいたカップルがびっくりしていた。

 あれから15年、ケアマネジャーの仕事の基本はまさしく、「自己を知る」事である。自分の内面を見つめ、自分が何者であるかを振り返りながら、自分自身と向き合っていく。そして、皆様との一期一会が、自分の財産となり、成長の糧となっている事に日々感謝している。
 広島は、私にいろいろな事を学ばせてくれる。


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