百年目

 昨年の暮れ、車の運転をしながら、古今亭志ん朝の「百年目」という落語を聞いた。落語に詳しいわけではないが、結構好きなので、図書館でCDを借りたりしている。立川談志の弟子で、NHKの「ためしてガッテン」でお馴染みの、立川志の輔が好きで、何度か聞きに行っている。最近は、人間国宝の柳家小三治がとても面白いと思う。昨年の8月に一門会に行き「茶の湯」という演目を聞いた。円熟の境地なのでしょう、抜群に面白かった。

 でも落語に興味を持ったのは、何と言っても古今亭志ん朝の甲高い、歯切れの良いしゃべりが、テンポ良く耳に入ってきたからである。でも、すでに亡くなっていたので、生で聴けなかったのが残念でしょうがない。

古今亭志ん朝百年目 百年目: ある大店の一番番頭・冶兵衛。奉公人にはきびしいが、なかなかのやり手で主人の信頼も厚い。店では律儀な堅物で通っているものの実は大変な遊び人。ある朝、得意先廻りに行くと嘘をついてこっそり金目のかかった粋な着物に着替え、柳橋の芸者、たいこもち連中を引き連れて屋形船で向島へ花見に繰り出す。向島に着くと、酒が入って大胆になり、扇子を首に縛りつけて顔を隠し、桜が満開の向島土手で陽気に騒ぐ。一方、こちらは冶兵衛の店の大旦那。これまた花見にやってきている。連れが、あれはお宅の番頭さんではないかと言っても、大旦那は、うちの番頭にあんな派手なまねはできないと取り合わない。そのうち、二人は土手の上で鉢合わせ。冶兵衛は芸者と勘違いして大旦那にむしゃぶりつき、はずみでばったり顔が合った。いちばんこわい相手に現場を見られ、冶兵衛は動転。「お、お久しぶりでございます。ごぶさたを申し上げております。いつもお変わりなく……」酔いもいっぺんで醒めた冶兵衛、逃げるように店に戻ると、風邪をひいたと寝込んでしまう。

 あんな醜態を大旦那に見られたからにはクビは確実だと頭を抱えた冶兵衛、翌朝、帳場に座っても生きた心地がしない。そこへ、大旦那のお呼びがかかる。覚悟を決めて行くと、意外にも、大旦那は穏やかな口調で普段の働き振りを誉め、法話を引き合いに出し自分一人が楽しむのではなく奉公人にもゆとりを持たせよ、さらに金は使うときは惜しまず使え、昨晩帳簿を調べたが冶兵衛は店の金を使い込んでいるわけではなく、自分の金で散財している。それくらいの器量がないと大きな商いはできない。わしも付き合うからこれからもどしどし遊べというありがたい話をしてくれる。約束通り来年はおまえさんに店を持ってもらうと言ってくれたので、冶兵衛は感激して泣きだす。
冶兵衛が大旦那とばったり会った時に、ここで逢ったが百年目というように、クビを覚悟した絶望的な気持ちがオチに使われている。

 この話聞いているととても暖かい気持ちになる。志ん朝さん演じる大旦那の懐深い思いやりのある振る舞いに、人を育てるってこういうことなのかなぁと話の余韻にひたりながら新しい年を迎えている。