自分の感情(逆転移)について考える 2021年3月

船橋 正史


 もう10年以上前の話ですが、ご夫婦二人暮らしの世帯。訪問するたびに、認知症の奥様が、「うちのおじいさんをどこか施設へ入れてください」と訴える。

ある日、奥様が肺炎で入院となった。その間、ご主人はショートステイの利用となった。

お二人とも不在のご自宅で飼い猫が老衰で亡くなってしまった。

ヘルパーさんの協力のもと、お別れのために猫の亡骸とともに、ご主人の施設へ行き伝え、その後、奥様の病院へご主人と一緒に面会に行った。認知症の奥様は、「おじいさん会いたかったよ〜」と感動の再会となった。

その後、病院の隣の公園でご夫婦一緒に猫とのお別れをした。

退院後は、亡くなった猫の事は話さなかった。

なぜか、猫とすんなりお別れできたことが、自分の心の中でひっかかりとなった。

当時は、どうして可愛がっていた猫が亡くなったのに、そう簡単に忘れられるのだろうと思った。

自分のこの感情について振り返り(内省作業)をした。

 実際自ら進んで振り返り作業をしたわけではなく、事例を提出する必要があり、きっかけは心のひっかかりについて検証する必要があったからである。(東大和市では、平成16年から平成23年途中までケアマネジメントリーダー活動支援事業という形で著名な相談援助トレーナーの方に定期的にスーパービジョンの講師をしていただいていた)その事例提出の期日が迫ってきていたので、自分の感情について向き合わなければならなかったわけである。

 何をしたかというと、「ケースワークの原則」という黄色い本を読み直した。そして、バイスティッックの7原則を一つずつ検証してみた。その当時の事を思い出すと、「個別化の原則」については、人は十人十色なので、個別性は配慮しているつもりだよな〜よし!、「意図的な感情表現の原則」については、話しやすい雰囲気には十分気を使っているな〜よし!などとチェックしていた。三番目の「統制された情緒関与の原則」のところで、あれ?と思った。この感情は誰の感情なのかな?奥様の感情でもなくご主人の感情でもなく、私自身の感情だと気がついた。自分の感情とご夫婦の感情の違いをしっかり自覚できていなかったように思う。

当時の事例の考察を読み返すと、

今回、検証作業を行い、自分の行動やそれぞれの場面での思考を整理する事ができた。そして二つの収穫が得られたのではないかと思う。

・共感の及ぼす過度の感情移入に注意しなければならない事。

・又、他者性を自覚しながら援助を行う事が重要である事。と書かれている。

ただ、なぜの猫との別れについて、自分の心の中にひっかかりが残るのかはスーパービジョンを受けるまでわからなかった。スーパービジョンの中で、講師の方から「過去の自分の体験、経験が、現在の援助に影響を及ぼすこともあるのよ」 と言われた時にはっと気が付いた。※スーパービジョンの醍醐味を肌で実感した瞬間でもある。

過去の猫との体験と現在の支援の場面が重なった。

 私は小学生の時に、老猫(キジ猫でチビという名前)を拾ってきて飼っていた。程なくして家の横の物置の中で死んでしまった。生き物の死に初めて直面し、とてもショックだったことを覚えている。利用者宅で、猫の死を発見したときの状況は、籐の椅子の上に毛糸の敷物があり、その敷物に片方の前足の爪がひっかかり、前足を伸ばしたうつ伏せの状態で発見した。その姿がとても印象的であった。小学生の時に飼っていたチビも片方の前足を伸ばしてうつ伏せの状態で亡くなっていた。その情景が自分の中で重なった事に気がついた。それがわかり、長年の疑問が解消されたように感じた。

自分の傾向を確認する。

 当時、振り返り作業を行うことにより、自分の傾向を確認することができた。バイスティックの7原則を用いて検証を行い、「統制された情緒関与の原則」のところでひっかかりに気付いた。具体的には、自分の感情を他者の感情に重ねる傾向がある。「統制された情緒関与の原則」を侵しやすい傾向にあるので、今感じているのは誰の感情なのか?と自分に問いかけながら点検する必要があると感じた。その為、他の原則についても、「バイスティックの7原則を理解する」のページに載せたように、自己点検リストを作成し、日々点検している。

 振り返り作業は地道で地味な作業であるが、ケアマネジャーの成長には欠かせない作業である。その成長過程では、寄り道や回り道はたくさんあるのに、近道は一本もないことを実感する。でも継続することで、新しい自分に出会えることがある。今日とは違う自分が明日待っていると考えればおのずとワクワクしてくる。新しい自分に会いたくなるからである。人を援助するとは自分自身をより深く知る作業でもある。

※転移と逆転移

 人は新たな人間関係を経験するときに、かって経験した関係にともなう感情の記憶を、程度の差はあれ、そこに投影する。また、人は人間関係の中で、その人が自分に向けて発している内的感情を他者に向かって表現することがある。これは、援助関係においても同じである。

 クライエントがかって経験した感情や経験、また自分に向けている内的感情を援助関係に投影することを「転移」という。転移は、クライエントの対人関係の歴史や特徴、また内的感情を理解する資源であり、臨床診断や援助の方法を検討する上で貴重な資料であるといわれる。

 一方、援助関係の中で、援助者に生じる感情や反応は「逆転移(あるいは対抗転移」と呼ばれる。
(尾崎新著 ケースワークの臨床技法「援助関係」と「逆転移」の活用 誠信書房 125P抜粋)



ケアマネジャーという仕事

ホームへ戻りま〜す